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世界はわかりにくくできている [memoranda]

ここのところの社会の情勢について聞こえてくる様々なことにどうしてこんなにも不安と苛立ちを覚えるのだろうと思っていたが、ひょんなきっかけで思いついたことがひとつある。物事をダメにする考え方のひとつとして、「わかりやすい説明を求める」ことがある気がする。

もちろん、物事がわかりやすく説明できればそれに越したことはない。たとえば、古典力学におけるニュートンの3法則は物理学の中でも類を見ないほど「わかりやすい」法則である。しかし、この場合の「わかりやすい」は、「聞いた瞬間に誰もが腑に落ちる」ことを意味しない。日本のような教育水準の比較的高い社会においても、古典力学が一通りわかる人というのはむしろ少数派ではないだろうか。

いつからだろうか、学校の先生が「わかりやすい」説明をすることを求められるようになったのは。もちろん、学ぶ人が理解の道筋へと至る過程をなるべくよくたすける、そういう意味での「わかりやすい」説明は存在し得るとおもう。しかし、理解すべき本質的な要素をいくつも内包しているような事柄について、その何もかもを一瞬で説明することは原理的に不可能である。もしそれをしようとすれば、あなたは何らかの意味で嘘をつくことになる。たちどころに外国語がペラペラとしゃべれるようになる「わかりやすい」説明など存在しないのと同じである。

原発事故で拡散された放射性物質の人体への影響を「わかりやすく」説明して欲しい、といった場合の「わかりやすく」というのは「手っ取り早く」という意味である。微量の放射性物質が長期に渡って人体に与える影響というのは、僕の理解が正しければそれほど判然とはしておらず、いくつかの working hypothesis があるのみである。どうしてそうなのかを説明せよとなれば、統計学から始まって長い説明を加えることになるだろう。

税金の話にしても然りである。税金をある使途に当てるには、その必要性が生じた歴史的な経緯があり、また現にそれを使って行われている事業がある。確かに使い方の妥当性が問われるような部分もあるかもしれないが、だからといってその使途全体をバッサリ切れるようであればはじめからそんな使途はまず発生しなかったと見るのが大概において妥当だと思う。それなのに「税金の無駄遣いを無くして財政再建」みたいなことを言う輩がいる。ひいては、「減税」を叫ぶものさえいる。たしかに「無駄をなくして財政の立て直し」というのは「わかりやす」くて「耳に心地よい」。手っ取り早く受け入れやすいフレーズである。しかし、これはキャッチコピーの一種であって、これに同調する時には、この言葉が実際に何を意味しているのかという、やはり理解を要求する本質的な事柄に関する考察は全くバイパスされているのである。

事程左様に、わかりやすさを求める事は思考を停止させると宣言していることとほとんど同じ事ではないか。なぜなら、この世界は本来的にわかりにくいものであるからだ。

無駄遣いの話に戻れば、公務員の給与が高すぎると声高に叫ぶ人がいる。個人的に僕は高すぎるとはちっとも思わない。彼らは労働基準法で守られておらず、特に中央官庁に勤める人々は人事院による勧告があるとは言っても慢性的に極度の労働過多であると聞く。公務員は公僕なんだから、一般の企業の月給よりも安い実入りで奉仕せよ、などと叫ぶ人もいる。そんなことをしたら、およそ優秀な人材は公務員として働かなくなり、行政の実務機能は低下するだろう。つまり、市民が受ける行政サービスの質が低下することになる。今現在の公務員の仕事の質が十分高いかどうかを問題にしているのではない。給与を下げれば、現在に比べて仕事の質は下がるとみて大方間違いはないだろう、と言っているのである。公務員叩きをする人々が、自分の受ける行政サービスが低下したときにこれを諾々と受け入れるだろうか?

豊かな社会とは何であるか。一言では定義できないが、豊かな社会が必ず持っているもののひとつは、「余裕」である。余裕とはこれすなわち、適度な無駄遣いを意味している。逆に、社会のあらゆる場面において無駄遣いを全く廃絶した世界を思い浮かべれば明らかである。晩ご飯に一口の酒を飲む事さえ「無駄遣い」だからといって禁じられ、ブランドもののハンドバッグや宝飾品を買う事も「無駄遣い」だからといって禁じられるような世界。それを自分も含めて多くの人々が受けれられるとは到底思えない。税金の無駄遣いをなくせ、というのは一面では非常に正しい主張でありながら、他方、それは行き過ぎると社会の余裕を奪い、この日本の社会がいままでよりも豊かでなくなる事を指向する事でもある。社会の豊かさの源たる余裕を我々が買い支えていこうとするのか、余裕は無いんだから余裕はいらないといって売り飛ばしてしまうのか、我々はそういう決断を迫られているように感じる。

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NO NAME

この4年ほどの間に近くに引っ越してきた住人には注意してください。

彼らは一般人のように見えて、実は一般人ではない可能性があります。
あなたが地方に住んでいる場合は、特に注意が必要です。


彼らの行う活動は主に地域住民の監視と思われますが、社会のルールやマナーを守る意識が希薄である悪質な者による迷惑行為等、普通の人の目からは世の中で当たり前に起こっているように見えることなど。
また報酬次第で人に言えない仕事でも請け負っている場合があるようです。

移り住んでいるということは元居た場所でやっていた仕事を辞め、わざわざ仕事が少ないであろうその地域に移ってきた可能性が高い、ということになります。

つまり、あなたの家の近くに突然移り住んでおきながら割のいい仕事を得ているということになるのです。
by NO NAME (2011-12-07 03:09) 

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