選挙結果を見て

ある程度予想された事とはいえ，僕個人の考え方からすればまたひとつ状況を困難にする要因が増えたと感じる．絶望的である．この十数年間の自民党政権の無策ぶりが経済の立ち直りを遅らせ，政府の財政を悪化させ，さらに新自由主義的政策が比較的所得の少ない国民を疲弊させたのが現在の日本の抱えている三重苦なわけで，それらへの対策には一瞬の猶予もない．ただでさえ政権慣れしていない民主党でぐだぐだしていたのに，衆参逆転となれば民主党は自らが実施したい政策に関わる法案は全く通せないのだから，民主党政権は衆議院選挙から10ヶ月もしないうちにレームダック化してしまった訳である．かといって，衆議院では数的優位に立っているから政権を明け渡す訳もないので，この先3年間はこの参議院選挙で民主党がそれなりの議席を確保したと仮定した場合に比べてより多くの政治的空白を生じてしまったと考えるのが妥当だろう．

衆院選で民主党に入れたのに今回自民党に入れた人々は，やっぱり自民党の方が安定感があると考えたのだろうか．でも，思い出さなければならないのは，安倍内閣，福田内閣のぐだぐだである．万一自民党政権になっても基本的にはアレと同じ事が繰り返されるわけである．それに嫌気がさしたから民主党に投票したんじゃなかったんだろうか．自民党の「安定感」はとうの昔に失われた，遥か彼方の幻影なのである．

無党派層の多くは今回「みんなの党」に流れたという．しかし，このみんなの党の顔ぶれを見ると，外資系企業で活躍していましたとか，起業家ですとか，そんな人たちばかりである．そういう人たちが今一番実行力があると見られているのかもしれない．しかし，たとえば「元コーヒーショップ経営」の人が議員になったようであるが，こういう会社は店で働く多くのアルバイトを安い賃金で搾取し，社員には過重な労働をさせるというのが定番であって，そういうところから利益を吸い上げているのである．無党派層の多くはそれなりに裕福な市民であると見なせると思うが，自分もそういう金持ちリーグに入っていると錯覚しているものの，実際彼らの多くは搾取される側なのだという事をただ忘れているのではないだろうか．「みんなの党」の政策を見ればこれは超新自由主義的で，もし彼らに政治を任せればたとえば全国一律の社会保障（年金，健康保険）は放棄されるものと見なさなければならない．公務員を大量にカットすればそれとセットで政府のサービスもカットされるのが当然だからである．中央官庁の役人はオーバーワークで有名で，なにも一日いすにふんぞり返って煙草を吹かしているだけで給料をもらっている訳ではないのだ．官僚機構を破壊して政府のサービスを解体して浮いた国費は「民間でできる事は民間に」などといって民間に流れるのだろうが，それらはいわゆる企業経営者たちもともと金持ちな人たちがよけい潤うだけであって，一般市民のところまでおりてくる訳ではない．起業家だとかセレブだとかそういうのをもてはやす拝金主義ほど一般人にとってむなしいものはない．そういう人たちのスタイルをまねて自分も金持ちになったつもりになってただ踊らされているだけじゃないだろうか．

民主党政権になって実際何が悪くなったということはない．もちろん，地方の，例えば農業に従事する人々の落胆は非常に大きかったのかもしれないが，自民党の，特に小泉政権以降の農業政策がそれほど良かったのかと問えばそうではないだろう．民主党政権はまだ始まったばかりだというべきで，逆に言えば10ヶ月で実感できるほど生活環境が上向くなどという事はあり得ない．別に僕は民主党を積極的に支持している訳ではないが，だからといって，なんか民主党に期待してたんだけどあんまり良くならないしぐだぐだしてるからもう嫌だ，というのはあまりに軽率じゃないだろうかと思う．まるで，この番組はなんだかあんまり面白くないから次のチャンネル，といってザッピングをするかのように投票結果が選挙ごとにかわっているような気がしてならない．政治的な選択をすることは，テレビのチャンネル選びとは違う．もしもそういう感覚で投票している人が多くいたとすれば，それこそ衆愚の骨頂とでも言うべき事である．前も書いたけど，我々は政治家を育てなければならない時代に生きているのだから，我々市民個人も，またメディアもそれを自覚しなければならないはずだ．